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雇入時健康診断の結果を理由にして不採用・内定取り消しはできない

「雇入時健康診断の結果がよくなかったので、内定取り消しができないか」と考える企業がないわけではありません。内定者の側でも、「診断結果が悪かったらどうしよう」とプレッシャーに感じる人もいます。しかし、これはいずれも雇入時健康診断の目的を理解していないということなのです。これとは別に採用選考時健康診断を用意することもあります。ただし、採用差別にはならないように慎重に進める必要があります。

雇入時健康診断を受けさせるのは雇用主の義務

「労働安全衛生法規則第43条」には「常時使用する労働者を雇い入れるときは、(中略)医師による健康診断を行わなければならない」とあります。

ここでの「常時使用」には、労働時間や雇用期間によっては非正規雇用(パート・バイト、契約社員など)まで含まれるため、正規雇用(正社員)はいうまでもありません。「内定者や新入社員に雇入時健康診断を受けさせたほうがいいかどうか」と迷うようなものではなく、受けさせることは義務なのです。

目的はあくまで労働者の健康管理です。診断結果を見てから内定や入社を取り消すことはできません。

ただし、仕事(労務提供)ができないぐらいのトラブルが見つかった場合は別です。内定取り消しもありえるでしょう。とはいえ、これは中堅・ベテランの社員でも同じです。入社前や試用期間だからといっての特別扱いではありません。

雇入時健康診断の内容

雇入時健康診断は医師や本人に丸投げして終わりではありません。診断結果を健康管理に役立てるのは企業側の役目です。

検査項目

検査項目は次のように決まっています。

  1. 既往歴及び業務歴の調査
  2. 自覚症状及び他覚症状の有無の検査
  3. 身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査
  4. 胸部エックス線検査及び喀痰検査
  5. 血圧の測定
  6. 貧血検査
  7. 肝機能検査(GOT、GPT及びγ-GTPの検査)
  8. 血中脂質検査(LDL コレステロール、HDLコレステロール、 トリグリセライド)
  9. 血糖検査
  10. 尿検査
  11. 心電図検査

給食従業員はさらに検便が加わります。

項目は定期健康診断でも同じです。ただし、定期の場合は医師の判断で一部を省略できるのに対し、雇入時健康診断では全部必要です。

これらの結果は、内定者・新入社員のまっさらな状態を示しています。入社後の定期健康診断などで悪化しているようならば、仕事そのものや、仕事を始めたことによる環境の変化が影響していることも考えなければならないでしょう。

いつ受けさせる?費用はどちら持ち?

指定された項目の検査結果が全部そろっていれば、必ずしも企業からの指示で受診する必要はありません。内定者や新入社員が自分で受けて、診断結果を提出してもいいのです。その受診期日は入社前3カ月以内と決められています。

企業で受けさせる場合の期限は明示されていませんが、同様に入社前3カ月以内ならば十分に有効と考えていいでしょう。入社後でも問題はありませんが、1カ月をめどとする企業が多いようです。

入社手続きの一部であることから、費用は企業側で支払うのが一般的です。

健康上の問題がある場合、内定取り消しはできるか?

それでも健康上のトラブルのせいで、その職種に就けるわけにはいかないこともあります。この場合は採用選考時健康診断などを検討してみましょう。

採用選考時健康診断をする場合は細心の注意が必要

採用選考時健康診断と雇入時健康診断の違いは、内定を出す前にやるか後からやるかです。

雇入時は義務であるのに対し、採用選考時は義務ではないのも大きな違いです。「就職差別につながるおそれがある」として、厚生省は禁止まではしないものの慎重になるように呼びかけています。

しかし、採用・不採用を決める前に、健康上のチェックが欠かせない職種もあります。例えば、タクシー・バスの運転手のように一瞬の隙が重大な事故につながる職種の場合、てんかんや睡眠時無呼吸症候群の有無を確認しておくのはむしろ企業側の責務でしょう。

採用選考時健康診断の検査項目は必要性が明らかなものに限定し、検査前には応募者に十分に納得してもらう必要があります。「念のためにこれも加えておこう」は、就職差別になる可能性が高いのでやめておきましょう。

また、同じ検査項目であっても、すでに内定を出した後に行い、採用を見送るのであれば別の話です。その前に、「その職種に限定しての募集だったか」「限定してなったらもちろんのこと、限定していたとしても予定していた以外の職種や部署で働いてもらうことができるか」などを検討しなければいけません。内定を出した時点で雇用契約が成立しているというのが法的な解釈なので、一般の社員を解雇するのと同じだけの手順が必要なのです。

面接で健康面の質問をする場合の注意

応募者の側には健康上のトラブルを自分から申告する義務はありません。ただし、面接などで質問したにもかかわらず、うそを回答する・事実を隠すといった場合は、入社後に懲戒を検討できます。

ただ、この質問でも就職差別になる内容はしっかりと避けなければいけないのは、採用選考時健康診断と同じです。

別の予防線の張り方として、入社時の誓約書に「採用決定時には明らかではなかった健康上の問題が発覚した場合、内定を取り消す」といった一文を入れることも考えられます。

ただこれも裁判を起こされた場合はハードルが高いです。企業側は「採用決定時には知らなかった」と「知っていたら内定を出さなかった」の両方を立証する必要があります。

健康診断を受けなかったらどうなる

「常時50人以上の労働者を雇用する事業者」は定期健康診断の結果を労働基準監督署に提出する必要がありますが、雇入時健康診断は労働者数にかかわらず提出する必要はありません。

ばれなくても違反は違反です。受けさせていなかったり、受けさせていても企業がその診断結果を回収していなかったりすれば、50万円以下の罰金と定められています(労働安全衛生法第120条)。

一方で、企業が厳命しても内定者・新入社員の側で雇入時健康診断を拒否する例もあります。これは認められません。そういう内定者・新入社員がいれば、懲戒の対象にできます。

企業自身のためにも不当な健康診断の使い方を避ける

雇入時健康診断を考える上で、真っ先に思い出さなければいけないのは、「内定者と企業の間には労働契約が成立している」ことでしょう。すでに社員と同じということです。雇入時健康診断も定期健康診断と違う使い方はできず、あくまで社員の健康管理のためのものです。

万が一、職種につながるような明確な理由もなく、健康診断を不採用や内定取り消しに反映させるようでは、厚労省も懸念するように就職差別になる可能性が高いです。「本人の持つ適正・能力以外を基準に採用を決める」ということで、実力では合格圏に入っている人を落とし、代わりにボーダーラインより下の人を繰り上げることにもなります。